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2014年3号

櫻草紙の見どころをお聞きしたいのですが。

勘十郎
1番の見どころは、序幕は日本舞踊の素踊りというものの面白さ。今までの新作公演でもやってきた群舞や、そういった日本舞踊の色々な面白さが序幕に。2幕目は歌舞伎舞踊。原点ですから。この今、自分たちのやっているものの原点である歌舞伎舞踊の面白さ。最後はレビューということで華やかに終わる。お客様に“あぁ、なるほど気持ちよかったわ”と思って終わっていただけるようなレビュー。これもひとつの舞踊のかたちですね。3つの踊りのかたちをベースとして、なるべくわかりやすい作品をつくろうと思い、この作品を考えました。わかりにくいストーリーを排除して、起承転結をはっきりし、プロローグがあり、話がどんどん展開していって、最後にエピローグがあっておしまいがある。 ストーリーは単純な恋愛物語をベースに、そこから自然界のことを織り交ぜた木々の復讐という、1つのスぺクタクルにしています。すごく単純明快な作品にして、極力、唄の歌詞など省けるところは省いて、踊りで見てわかるものを作ろうというのが今回のコンセプトですね。

それでは、主役の花柳ツルさんと藤蔭里燕さんにお話を伺います。先程、勘十郎さんからご自身の経験も踏まえて、今回お二人にこのような経験をしてほしいというお話がありましたが、まず、勘十郎さんの演出・振付作品の主役のオファーがあったとき、どのように思われましたか。


「京鹿子娘道成寺」花柳ツル

ツル
やはり大変ご活躍されてる方なので、すごく嬉しかったというのが第一です。でも、新作公演のような新しい創作の作品には、ほとんど出たことがなかったので、不安もあります。ご期待に添うことができるように頑張りたいと思います。
里燕
今までは観ているだけだった新作公演で、2年前に「走れメロス」で初めて出させていただいて、色々な先生方や先輩方の中で踊らせていただくだけでも幸せでしたが、こうして主役という大きなお役をいただいたのはとても嬉しかったのと、やはりツルさんと一緒で、すごく不安もあります。でも、こういう機会は本当にありがたいと思い、お役の先生方や先輩方、勘十郎さんやスタッフの皆様の中で、精一杯勤めたいと思っています。

台本を読んで今度ご自身が踊られる櫻の精小桜という役についてどのように思っていらっしゃいますか。


「鷺娘」藤蔭里燕

ツル
強くまっすぐだと思います。あまりまずは考え過ぎず、お稽古が始まってからご宗家の意に沿って作っていけたらと。
里燕
台本を読んだのがちょうど桜の咲いている時期だったので、桜の風景を見ながら感じたことは、つぼみはなんとなく可愛いイメージで、夜桜は怪しげなイメージで、でも満開に咲いていると華やかで…。芯のしっかりしている桜の持っている要素が、この小桜の性格にもあると台本を読んで感じたので、そういうところを出していけたらいいと思いました。

勘十郎さんは主役のお二人に踏まえておいて欲しいところなどはありますか?

勘十郎
今、里燕さんも言っていましたが、つぼみの花に、鳥が来て、ぱっと花開いて、恋に落ちる。それから、満開って一番綺麗じゃないですか。でも、満開って一番最後のかたちなんですよね。桜の一番綺麗なところって。 ただ、これは面白いもので、おそらくお稽古をしていくと、さっきのツルさんじゃないけれど絶対違うと思うんです。2人とも。 そこを僕たちは同じものを2人にやらせるのではなく、なんのためのこの<華の花鳥>なのか。<藤の風月>なのか。ってところだと思うんです。そういうところで全然違うものを作り上げる。同じことをやっていても違うものを作り上げていくことが、1つの楽しみでもあります。 だから、例えばツルさんはこうやっていたからって里燕さんが同じことをしなくても構わないと思うんです。 そもそものタイプも違う。題名がつくってことはこの2人に合った作品。合ったところで満開に咲いて欲しいし、華々しく散って欲しいと思うんですよね。なので、そういう意味でどちらの意見もうまく取り入れながら、2人に合った作品を作れればなと思っています。

今のお話を受けて、お二人にお伺いしたいのですが、今回のこの公演の抱負といいますか、こういうところをお客様に見て欲しいというところがあれば、聞かせていただけますか。

ツル
色が出ればいいなと思いますね。その、組全体もですが、自分も。これまでのお話にもありますけれども、両方観て頂いた方に、“あっ違うな”と感じて頂いたり、そういうように自分らしくというのが抱負です。
里燕
先程“観てわかる作品を”とおっしゃっていたので、私も観てわかるように踊れるようになりたいです。

今後、どのような舞踊家になりたいか、こういうところを目指しているなどありましたらお聞かせ下さい。

ツル
そうですね。この人ならって。こういう役は“この人なら”というような。そういう雰囲気があったり、選んでいただける舞踊家になりたいと思っています。
里燕
日本の伝統文化である日本舞踊を身近にいろんな人に伝えていけたらいいなぁと。そういう舞踊家になりたいです。

今回、日本舞踊協会は外部の演出家、振付家として勘十郎さんを新作公演にお迎えしました。藤間流宗家としてのお立場や幅広いお仕事の経験を踏まえて、日本舞踊界や日本舞踊家の未来について思うことをお話しいただけますでしょうか。


平成25年11月『明治座花形舞踊公演』「来宵蜘蛛絲」
藤間勘十郎 写真提供: 明治座 撮影者: 江川誠志

勘十郎
そうですね。ざっくばらんに申し上げたら、僕は、素人か玄人かここをまずはっきりした方がいいと思います。やっぱり素人は素人で、とことん自分が好きなことをやっていればいい。でも、玄人っていうのは、好きなことばかりできないですよね。逆に好きなことなんかできないです。なので、例えば、今申し上げたこの公演、日本舞踊協会新作公演。新作“公演”なんですよね。“公演”なんです。

これは、日本舞踊のこれからのことを考えて、本当に自分たちがプロだと思っている人間たちが集まって、その集まった人間だけで3日間なんとか公演をたたき出さなきゃならない。“公演”とは何かという話です。やはりそういうところだと思うんです。本当に自分たちはプロとしてやっていくことを、自分の腕も踏まえて。自分の事を振り返って…。 そういう人たちが増えれば、公演というものが、きちんとできるようになるし、質の向上にもなるのではないかと思うんです。 やはり日本舞踊の事を考えたら、平成生まれの人たちに頑張ってもらいたいっていうのが1番。自分より年下の人たちがもっともっと頑張って、彼らが住みやすい、仕事しやすい環境を作っていってあげるのが自分たちの役目である。まぁ、それは…自分の子どもができて思ったんですけどね(笑) 僕たちより年下の人たちになんとかできる環境づくりだけはしてあげたいと。 魂が宿って踊れるような環境づくりをしなくてはならないと思いました。 今回もそうですが、ただやらされている訳じゃなく。ツルさん、里燕さんが私の作品をただやっている訳じゃなく、自分たちの作品をやっているようにならないと意味がない。そういうことが、魂が宿ることだと思うんですよね。 “宗家が右って言ったら右行きます。”とか“左って言ったら左行きます”では、自分の魂がない。僕はそういう意味で、魂を宿して踊って欲しいと思うんです。

舞踊界のみんなが生き生きとね、魂が宿って踊れる。そうすると、群舞もおもしろくなるんです、もっと。 今言った20分の1じゃなくて1が20個あることになる。20分の1にはならないわけです、絶対。きちんとクリアにみんなが考えて、“あいつ踊りうまいんだよなぁ”とか、“振付うまいんだよなぁ”とか相手のことを認め合える世界になればいいと。 その為には、自分は犠牲になってでも自分たちの子どもの時代にそういう世界がくれば。と思いますよね。 お二人には期待しています。よろしくお願い致します。
ツル・里燕
お願い致します。

本日はお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

藤間勘十郎(八世)●ふじまかんじゅうろう

八世宗家藤間流家元。
昭和55年生まれ。祖父である故 六世藤間勘十郎、母・七世藤間勘十郎(現・三世藤間勘祖)に師事。昭和58年「七世宗家継承の会」にて藤間凌(りょう)を名乗り長唄『雨の五郎』で初舞台。平成14年「二世勘祖13回忌追善 三世勘祖・八世勘十郎襲名舞踊会」にて、八世宗家・藤間勘十郎を襲名。歌舞伎舞踊の振付を担当し、若手俳優の舞踊の指導・育成にも努める。また、苫舟(とまぶね)の名で脚本・作曲なども手掛け、数々の新作を発表。フランス・オペラ座の歌舞伎公演の振付や若手出演の舞踊公演をプロデュースするなど幅広く活躍している。 平成14年度芸術選奨文部科学大臣賞新人賞などを受賞。

花柳ツル●はなやぎつる

祖父である四世宗家家元花柳壽輔に師事。2歳で「吉田屋」禿役にて初舞台。平成19年に二世花柳ツルを襲名。東京藝術大学音楽学部邦楽科卒業。国立劇場主催公演「菅原草紙」や協会協力公演「日本舞踊×オーケストラ」等に出演。





藤蔭里燕●ふじかげりえん

藤蔭流三世家元藤蔭静枝に師事。日本大学芸術学部卒業。協会主催新作公演「走れメロス」「創国紀」、日本舞踊協会公演、「日本舞踊×オーケストラ」等に出演他、サカナクションのミュージックビデオ等に出演。





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